第1話 春の大潮

冬の間荒れ狂っていた海が、4月ともなると潮が引いて春のひざしを浴びたやさしい顔を見せてくれます。

子供も大きくなって、私との接触がすくなくなり、そんな空いた時間に磯に出てみました。

もともと海のそばで育った自分に、子供の頃の記憶がそうさせたのかも知れません。

それまで水面の中から顔を出すこともなかったヒジキ、モク、ツノマタの海草や水溜りがあっちこっちに現れます。

その海草に足をとられながら水溜りの中を覗くと、子供の頃に見た世界がそこにありました。

それは1センチにも満たない魚らしき物が太陽の光を浴びてキラキラ輝いて泳いでいます。

となりに目を移すと波の泡が消えた中からミドリイソギンチャクの姿が現れました。

隣の大きな水溜りには大きなアメフラシが、誰かが刺激を与えたようで紫色の汁を出しています。

それに釣りの餌にでも使えそうなイソスジエビが、ウニ、アゴハゼ、 ギンポ、イソギンポこんな小さな水溜りにこんなにたくさんの生物が暮らしています。

その時「この水溜りを家の中で、部屋で見れたら」っと言う欲望がわいてきました。

確か祭りですくった金魚に使った30センチの水槽が遊んでいたはず。

1度家に帰って水槽とエアーポンプを確認してから、バケツと網を持ってさっきの磯に引き返しました。

網を持って魚を追いかけると魚はそれぞれの隠れ家に逃げ込んであっと言う間に姿を隠してしまいます。

しばらく時間をおいて再度チャレンジしますが結果は同じ、もっと良い方法はないものかと考えます。

この水溜りの形は丁度ひょうたんの形のように中間がくびれていて、魚はそのくびれた通路を通ってもう片方の水溜りに逃げ込んでいます。

しばらく他の水溜りを覗いて時間をつぶしてから先程の水溜りに戻ると魚は水面近くを泳いでいます。

今度は二つの水溜りをつないでいる通路に網をしかけてから魚を追いたてると期待した通り魚は網の中に続いて入って行きました。

それを手際良くバケツに移して急いで家に持ちかえります。

そして、先程の30センチ水槽に海水を満たして魚を放ち、エアーポンプをまわすと、なんと涼しげなんでしょう。

その魚はボラの幼魚で5月のこいのぼりよろしく水槽の中央でヒラヒラとウロコを輝かせて泳いでいます。

この窓辺に置かれた水槽、大きくなるんです。


第2話 チョウチョウウオ現る 
梅雨の季節 雲が低く霧も立ち込めて、海水が黒く濁った朝、こんな朝はメトイカが釣れるんです。

メンバーはいつものMさん、Oさんそして私の3人で気心が知れたいつもの仲間です。

今日の予定は朝のうちはメトイカ狙いで、日が昇ったらキスに切り替えて昼過ぎには上がってイカ刺身にキスのてんぷらで一杯です。

船は定員6名ですが実際は3人が丁度よい大きさです。

Oさんが舳先、Mさんが真中で、私は後ろで船外機を運転します、私は運転の免許はありませんがOさんが持っているので平気なんです。

船外機を起動する紐を引張ってエンジンを始動させます。

エンジンが古いわりにはいつも一発で始動です。

港内徐行、船は右側通行でゆっくりと港を出てメトイカの漁場へ、っと言っても10分もあればたどりつくくらいの距離で深さは2−3メートルです。

仕掛けはドウツキ仕掛けで一番下にオモリがついて、その上にイカ角が10個ほど付きます。

それを底をとりながら上下するとづっしりと重くなります、慌てることなくゆっくりとリールを巻き上げると真っ黒なスミを吹き上げながら15センチ程のメトイカが上がって来ます。

慌てて巻き上げると逃げられてしまい、足だけついて上がって来ます。

悔し紛れにその足を口に含むと甘海老のような甘さが口の中に広がります。

我々の乗った船には魚群探知機は付いていないので、魚探を積んだ他の船の動きを見ながら釣る事になります。

メトイカが釣れるのは明るくなってから日が昇るまでが勝負となります、角が10個も付いているので扱い方を気をつけないともつれて、釣る時間が短くなります。

それでも一人5‐6匹は釣れて何とかおかづにはなります。

今度は仕掛けを変えてキス狙いで餌はジャリメ、港の右側の砂地の漁場に場所を変えます。

なにしろこの漁場は一人200匹の実績がありますが、この2年間は数が出ていません。

それでも酒の肴くらいは釣れるんですね。

もう11時を過ぎて日も高くなると朝のメトイカの時のような緊張感は薄れて、陸に上がってからの飲み会の方が気になります。

船を陸に引き上げるといつものことで、各自役割分担は決まっていて30分もあれば身が透けて見えるイカ刺しと上品なキスのてんぷらで海を見ながらの飲み会が始ります。

メトイカの刺身、キスのてんぷらを突っ突きながらみんなで言うのです「いやー海はいいなー仕事のストレスもふ飛んじゃうね。」って・・・・・・


そのような8月の釣りの時、いつものように飲み会も終わりかけたときOさんが岸壁のタマ網を持った2人を指差して言います。

「ほら、ミウラさん、あの人達チョウチョウ採ってるんだよ、熱帯魚を。」

そんなバカなっと思いながらOさん、Mさんの後について岸壁の方に行くとOさんが2人に話しかけます。

「どう、なんか採れた。」

「ええ、一匹採れましたが。」

っと言ってバケツを見せてくれます。

「おお、チョウハンだね、小さいのによくみつけたね。」

Oさんと、Mさんが覗き込みます。

「もう1匹フウライがいるんですがカキ殻に逃げ込んでなかなか採れないんですよ。」

どれどれっと言って2人がフウライの方に移動した後、私がバケツを覗き込むと2センチにも満たない小さな魚がいました。

その魚はバケツのスミに体を寄せて、おびえたようにこちらを見ています。

その色合いは茶が濃くて、赤に見えるくらい鮮やかな、こんな汚い漁港には不似合いな宝石のような魚でした。

私はバケツの前から動くことが出来ずにその魚に見惚れていました。

「欲しい、私の水槽に入れて見たい。」

第3話 初めての採集 
「あ!いた、そこのカキ殻の所に隠れた。」

確かにカキの殻の間から白ぽい小さな魚が見え隠れします。

その魚を大きなタマ網でそーっと捕まえようとしますが、殺気を感じたその小さな魚はカキ殻の間に隠れてなかなか出てきません。

さすがの採集家の方もあきらめて、他の漁港を探すと言って帰って行きました。

この採集家の方が一匹も残さず捕まえられれば、私はこれから始まる海水魚に感染する事もなかったのかもしれません。

Oさん「ほら、また出てきた。」

っと言ってすでに感染しているOさんが、さっきの場所から1メートルほど離れた所を指差しながら言います。

Oさん「ありゃ小さすぎるなー、ちゃんと餌付くかどうか。」

私「Oさん、Mさんから海水魚飼ってるって聞いたけどこの事だったの、俺はてっきりペットショップから買ったやつだと思っていたけど。」

Oさん「チョウチョウウオは黒潮にのってやってくるんだよ、そうして冬になると寒さで死んじゃうんだ、だから死滅回遊魚って呼ばれているんだ。そうだ昔の本だけど海水魚の本2冊ほどあるから今度持ってきてやるよ。」

その日は綺麗なさかなを捕まえる道具もなく、釣って食べる宴は解散となりました、しかし私の記憶にはしっかりと小さいフウライチョウチョウウオの居場所がインプットされました。

翌朝6時タマ網とバケツを持って昨日の漁港に向かいました。

フウライに気づかれないように、そーっと岸壁から覗き込むと昨日とそんなに離れない場所で岸壁を突っついています。

気づかれないように遠くの方からタマ網を入れて時間をかけて魚に近づけて行きます。

1メートル程まで来た時にタマ網に気づき50センチ程離れましたが、すぐに岸壁を突っつきだします。

そんな事を繰り返しながら50センチの距離まで来た時、一気にタマ網をチョウにかぶせてチョウが中に入ったかと覗き込むと、チョウは30センチ離れた所を悠々と泳いでいます。

どうも50センチは遠かったようです、今度は40センチ、実際にその距離かはわかりませんが,さっきよりは近くに寄った所でまたタマ網をかぶせます。

今度はどうかと覗き込むとチョウの姿は何処にも見えません、あきらめてタマ網を岸壁から離そうとした時チョウがタマ網の中で泳いでいるのが見えました。

慌ててはいけません。

ここでちょっとでもタマ網を動かすと、またチョウはカキの殻の中に入ってしまうに違いありません。

そのままジーっと待つこと2分、チョウは警戒感も薄れてタマ網の中を泳ぎだしました。

大きく岸壁を離れて、タマ網の中に完全に入ったことを確認して網を引き上げ、中を確認するといかにも網の目をくぐりだしそうな小さなチョウが入っていました。

「やった!!」

急いでバケツに海水を汲んでチョウをいれると、チョウは元気にバケツの中を泳ぎ出しました。

信じられません、こんな汚いっと言えば漁港に悪いが、なんで珊瑚礁の綺麗な魚がこんな所にいるのか。

岸壁を端から端まで覗いても他に魚は見えないので、捕まえたフウライを大事に家に持ちかえってボラが入っている水槽にいれました。

これが初めてのチョウチョウウオでした。


第4話 飼育開始
魚は採集すればすぐに飼育が始まります。

その当時の水槽は、始めた頃の30センチ水槽からは少しは大きくなったものの40センチでした。

その小さな水槽に所狭しと魚やら海草が入っていて、1週間もすると海草は溶けてきて水を汚しました。

水の管理は物理ろ過しか頭になくて、水は汚れるもので定期的に交換するしかないものと思っておりました。

生物ろ過、化学ろ過などは、Oさんから借りた海水魚飼育の本で知りました。

本で見る水槽は小さくても60センチ、私のような40センチでは水の管理は難しいっと書かれていました。

それではと、早速ペットショップを訪れると60センチの4点セットが5千円を切る価格で売っていました。

これなら私の小遣いでも買える値段で、それにサンゴ砂、サンゴ砂の下に敷くスノコを買います。

いわゆる、ウェットろ過で、サンゴ砂の層を海水をゆっくり通せばサンゴ砂に自然に発生した好気性バクテリアが、海水の中に溶け込んだ汚れを食べて綺麗にしれくれるろ過方式です。

スノコを引いて、ポンプに通じるパイプを取りつけて、軽く洗ったサンゴ砂を引いて行きます。

水槽の上には上部ろ過で、物理ろ過のフィルターを入れて、これで配管の接続はおしまいです。

海水を注ぐとちょっと白く濁りますが、構わずにポンプのスイッチを入れると数分で水は綺麗に澄んできました。

ここで40センチ水槽から魚を移すのですが、以前に捕まえていれていたオキゴンベイやボラなどは海に戻して、フウライチョウチョウウオ1匹でのスタートとしました。

Oさんから借りた本には、水槽の立ち上げは始めから魚をいっぱいいれては駄目っと書いてあったからです。

生物ろ過とは

餌の残りや糞は有機物で、それからアンモニアが発生します。
すると自然にそのアンモニアを餌とする好気性のバクテリアが発生して亜硝酸に換えてくれます。
また、亜硝酸が発生するとそれを餌として硝酸塩に換えてくれるバクテリアも発生します。
アンモニアや亜硝酸は魚にとって猛毒ですが、硝酸塩はそれほど害は有りません。
しかし、その硝酸塩も蓄積してくるとストレスの原因となるので、定期的に海水を交換しなければなりません。

まあ、水槽が完全に立ちあがるには時間が必要で、魚は少しずつ増やして行けば良いっと、安直に考えて行きましょう。

次ぎは餌付けです。

アサリを剥いて包丁で小さく刻んでアサリの殻に盛って、O師匠が貸してくれた餌付け用の隔離箱にそーっと入れてやります。
チョウはまだ環境に慣れていなくて、相変わらず箱の隅っこにいて、まだ餌には見向きもしません。

それでも、たまに突っ突くようで、アサリが殻らこぼれ散っています。
アサリのミンチを食べるようになったら、次ぎは市販されている海水魚の、粒状の乾燥餌をミンチに混ぜて行き、最後は市販の乾燥餌だけでも食べるようになって餌付けは完了です。

このような情報は、O氏からも聞けましたが、私が急激に海水魚にはまり込んだのはパソコン通信があったからだと思います。

今ではインターネットでしょうが、その当時はパソコン通信からインターネットに移行し始めた時期でニフティサーブが最盛期だった時期です。

フウライを捕まえてから、パソコン通信巡回ソフトのニフティマネジャーで「海水魚」のキーワードで検索すると「採集」、「飼育、機具」などのフォーラムがありました。

ますます、私が採集と飼育にはまり込んで行ったのは言うまでも有りません。


第5話 岸壁採集

M湾で採集したチョウはフウライチョウチョウウオと言う名前だそうで、その他にもいろいろな魚がいるようです。

水槽が落ち着くのを待たないで、他のチョウを求めて私の岸壁めぐりが始まりました。

始めはM湾の隣のA湾に行って見ました、大きなタマとバケツを持って岸壁を行ったり来たりしていると地の漁師が不思議な顔をして話しかけて来ます。

漁師 「さっきから行ったり来たりして、何をさがしてるんだい。」

私 「南の海から来るって言われている熱帯魚を捕まえているんですよ。」

漁師 「ああ、真夏の時期になると、よく岸壁を突っ突いているのをみるなー」

私 「あ、やっぱりいますか、どの辺ですか、この岸壁は水が濁っていてあまりよく見えないんです。」

漁師と別れてゆっくりと岸壁を見て行くと蠣殻の間から、小さい綺麗な魚が岸壁を突っ突いているのが見えました。」

「いた!!!! 」

今回の魚は自分で見つけた魚で「え、こんなに簡単に見つかるものなの。」っと言う気持ちと、「見つけちゃったけど、どうやって採ったらいいの。」っと言う気持ちで、しばらくその魚をながめていました。

いつまでながめていても仕方がないので、まず魚がいる所の上に立って魚に気づかれないように離れた所からタマ網を入れて近づけて行きます。

初めてのフウライの時のように2-3度逃げられはしたものの、そんなに労せずにタマにいれる事が出来ました。

タマからバケツに移してよく見ると初めてのチョウとは模様がちょっと違うようです、フウライに比べてオレンジの赤みが強いようです、

これは早い時期に魚の図鑑を買わなければいけないっと思いながら、船が繋いである岸壁から家族連れが魚釣りをしている岸壁に場所を移動すると、遥か海の底を白と黒の魚の群れが泳いでいるのが見えました。

とてもタマが届く距離ではなく、あきらめて場所をB湾に変えて探しますがチョウの姿はなく、場所をC湾に変えると、今までつかまえたチョウよりもひとまわり大きいフウライが岸壁の亀裂に隠れているのが見えました。

チョウがその亀裂から離れるのを待ちますが、丁度漁船が水揚げする場所なので船の出入りが多くて水面がゆれて、落ち着いて採集が出来ません。

場所を最後のD湾に移動します。
この漁港は今までの漁港に比べて一番大きくて、岸壁を全部見てまわるのに時間がかかりそうです。

コの字の岸壁の奥の方から見てまわります。
覗き始めてすぐに今までのチョウとは違って黄色い部分が多いチョウが見つかりました。
セビレやワキビレを広げる、なんとも言えないかわいい仕草をします。

これもあまり労せずにタマにいれ、バケツに移して良く見ると、このチョウは今までのチョウに比べてムナビレも黄色です。

バケツを持って2-3メートル場所を移動すると、今度はチョウが3匹まとまって泳いでいるのが見えました。
しかし、知らない間に太陽は大きく西に傾いて、まわりは暗くなってきていました。

この漁港の探索と採集は来週の楽しみとしてD港を後にしました。

帰りの車を運転しながら、今日まわった漁港を思い出しながら、チョウがいっぱいいたところ、そしてぜんぜんいなかったところ、この違いはなんなのか。

そう言えばD漁港の場合、離れた所に沖からの潮の流れをせき止めるような堤防が出来て、潮の流れが変わって防波堤に近い砂浜の砂が削り取られ、反対D漁港に近い砂浜の砂が増えてきていると言う話を思いだしました。

これは沖まで延びた防波堤に沿って流されてきたチョウがD漁港に蓄積されているっと言う事にならないか。

これは来週の採集が期待できそうです。


第6話 岸壁採集U

朝食もそこそこに、車にタマ網の径が60センチ、柄の長さが6メートルのタマとバケツを積んで今日もD漁港を目指します。

途中にD漁港が見渡せる小高い丘を通る時「今日はどんなチョウチョウウオと会えるのか」心踊る一時です。

このような気持ちは社会人になってからは忘れかけていた感情です。

漁港に着くと早速岸壁を覗いてまわります。

岸壁の角は船がぶつかって、かけている所やロープなどが有って、チョウにばかり気を取られていると足元をすくわれて海に転落っと言う事も有るので注意しなければなりません。

また、岸壁は上から海底まで垂直なフラットな岸壁と、足の下奥深く入り組んだ、魚がそこに入ると手が出せない二通りの岸壁があるようです。

地元の漁師のおばさんが不審げに話しかけて来ます。

おばさん「さっきから何を探してるの。」

私「熱帯魚を探しているんですよ。」

おばさん「そんな熱帯魚なんかこんな所にいる訳がないだろう、わたしゃ何十年もここに住んでるんだ、バカにすんじゃないよ。」

私「じゃ、おばさんの足のずーっと下を良く見てみて。」

おばさん「え、そんな魚なんかぜんぜん... あ!居た!居た!! 本当に居るよ。」

っと言って知り合いの仲間のおばさん達にも教えて居ます。

教えられたあばさんはちょっと覗いただけで余り興味なさそうにその場を離れましたが、さっきのおばさんは心残りがありそに、その場を離れて行きました。

今日は天気も水の透明度も良くて、そして風がありません。

採集はこの三つの条件がそろう事はなかなか有りませんが、今日みたいにそろうと海の中が手に取るようにわかって、まるで水槽の中を覗いているようです。

反面見えすぎて困る事も有ります。

漁師が網に入って、商品にならなくなって捨てられた海底の魚まで見える事です。

んにしても、決して綺麗とは言えない漁港の岸壁を一生懸命突っ突いている、小さなチョウの姿はなんとも言えない気持ちにさせられます。

すでに採集している種類の魚でも、採集家のさがでタマを使いながら、魚と遊んでいると私と同じくタマとバケツを持ったご夫婦が岸壁を覗きながらこちらに向かってあるいてきます。

話を聞くと私はまだ採っていないチョウハンを最近採られたっと言う事、何年も採集と飼育をやっているが、水槽の掃除、水換えの時に魚を死なせている事など、旦那さんはあまり話をしませんが、奥さんがいろいろ話してくれました。

岸壁採集ではもう一組の方とお会いしました。

eさん親子で、がさつな私が遠慮なく話しかけてもいつもにこやかに応対してくれました。

きっかけは私が捕まえたカワハギの仲間の名前がわからず聞いたのが始まりで翌週にはちゃんと名前を調べてきてくれて教えてくれました。

eさん親子は岩場採集から始められたようで、岸壁は私と同じで経験は浅いようでした。

大きなお世話でしたが、私がすでに捕まえている種のアケボノチョウチョウウオをさしあげました。

その日、家に帰って夜にインターネットで海水魚のHPを見ていると「岸壁採集で同じ採集家からアケボノチョウチョウウオをいただいた。」っというHPをみて早速メールを差し上げました。

eさんとはその後も良い関係維持は続いております、っと思っているのは私だけでしょうか??


第7話 メンテナンス

採集を始めた年はチョウチョウウオの寄り付きも多かったようで、ひとつの漁港の岸壁を覗くと必ずチョウを見つける事が出来ました。

なかでもD漁港は端から端まで廻ると数種、20匹位のチョウが確認出来ました。

すでに自分の水槽に入っている類のチョウでも、採集家の性で自然にタマが動いてしまうのでした。

っと言う事はスケールアップした60センチ水槽もあっと言う間に満員状態で、それに連れてきたばかりのチョウは餌付けの為に水槽をしきらなければならないので、その窮屈さはかなりなものです。

その当時の濾過方式は底面濾過で、海水魚関係の本には長い間には雑菌が繁殖して、濾材の清掃時にその雑菌が原因でチョウが全滅する事が書いてありました。

そんな時にNIFTYのフォーラムにエンビ管を使ったドライ濾過方式が話題に出ていました。

@、直径が10から15センチのパイプを立てて、濾材(サンゴ砂)を入れて上部から処理水をシャワー状に供給する。

A、高さは高ければ高いほうが良いようですが、ポンプの揚程能力があるのでそちらとの相談ですね。

B、ドライなので濾材で生きているバクテリヤの死骸やらウンチ?が濾材の隙間に溜まる事がないので雑菌が発生しにくく、また定期的な清掃の必要がない。

C、しかし、ここまでの処理ではチョウにとって、絶対的なダメージを与えるアンモニアや亜硝酸は処理されるが、長い間にはストレスの原因となる硝酸塩が蓄積されるので、定期的な水交換で水槽外に取り出す必要がある。

っと言う内容で、Cの問題は別にしてBの定期的な濾材の清掃、洗浄の必要がないっと言う所に魅力を感じ、その製作にとりかかりました。

その当時、我が家では海水魚はまだ市民権を得ておらず、製作の費用もままならない状態でしたので、そのエンビ管は近所から余っているものを頂いて、底の部分やフタの部分のみを購入しました。

しかし、問題はポンプです、パイプの高さは1メートル近くあり、60センチ水槽にセットで付いていたポンプではぜんぜん揚程が足りません。

そこで、近くのペットショップに行きました、置いてあるのは淡水魚だけで田舎のショップなので余り期待もせずポンプがあるかどうか聞いて見ました。

私「海水用のポンプが欲しいのですが。」

奥さん「どのような水槽に使うの。」

私「60センチですが、高さが1メートルまで揚げる必要があるんです。」

奥さん「ここにはないけど、倉庫に行けばあるわよ、家は卸しもやっているから、案内するから付いて来て。」

年の割りにはちょっと濃い目の化粧をしたその奥さんは、道の向うに見える古い倉庫を指差します。

横断歩道の信号が青に変わって、暗い倉庫に入って行くと、倉庫全体の容量の70−80%のスペースに所狭しとあらゆる水槽、器具が積み上げられていました。

それはほとんどが新品ですが、中には長期在庫でかなりデスカウントが期待できそうな商品もあったので、悪くても卸価格で買えると内心大喜びしました。

薄暗い倉庫の中から出てきたのは、チョビヒゲをはやした年のころ60は過ぎた爺さんでした。

爺さん「セニョール、何が欲しいんだい。」

セ!セ!セニョールっと来たもんだ!!

一瞬度肝を抜かれ、気を持ち直してポンプがほしい旨を伝えます。

私「揚程が2メートル位のポンプが欲しいんだけど。」

爺さん「2メーターか、じゃあレイシーだろう。」

っと行って新品の350を出して来ました。値段を聞くとうん万円するらしい。

私「60センチの水槽で使うのでもっと安い奴はないの。」

爺さん「2メーターだろう、じゃーレイシーしかないぞ、あ!!そうだ中古があったな。」

っと言って自分が座っていた机の下から一度は使ったであろうレイシーのポンプを出して来ました。

爺さんは配線プラグをコンセントに繋ぎながら「ほら、CRCのような潤滑剤をさせばチャンと廻るようになるぜ。」っと言ってとろとろと、かろうじてまわっているポンプを私に見せます。

見た感じではそんなに使っていないようで塗装の色も焼けていないし、これは電気的な問題ではなくて多分ベアリングなどの機械的な問題と判断して価格交渉に入ります。

私「本当に大丈夫なの、そんな事言って、持ちかえっても使えないようだとゴミになるだけだしなー。」

爺さん「こりゃー絶対大丈夫さ。」

っと言って道具を取り出して分解、修理をやりだしそうなのでやばいっと思って値段を聞きます。

私「わかったよ、それでいくらなの。」

爺さん「ウーン、千円、いや500円でいいや、初めてだしな。」

私「500円か、じゃー駄目もとで買って行くよ。」

さっきの新品はうん万円もしましたが、中古(まだ使えるかは未定)は500円、すぐに持ちかえって分解すると、やっぱりベアリングがいたんでいました。
近くの船舶の部品を販売している店で型式を言うとベアリングは2個で500円、取替えてコンセントを差し込むとポンプは静かに高速でまわり出しました。

水道の蛇口の先に付けて水をシャワー状にするものと、ビニールホースを買って、これで準備は出来ました。
家族の冷たい視線を感じつつ、早速システムの変更にかかります。

魚をバケツに移して、サンゴ砂を今まで入っていた海水で簡単に洗って、他から調達した軽石と混ぜてエンビ管で出来たドライ槽に詰めます。
そして、ポンプからのビニールホースをドライ層の上部に繋いで水がシャワー状にサンゴ砂におちるように繋ぎます。
そして均一にサンゴ砂の間を通って来た水を水槽の上にある上部濾過のフェルトの上に降りる様にビニールホースを繋いで、水槽に海水を張ります。

さあ、緊張の一瞬です。
スイッチを入れたり切ったりしながら、海水の漏洩がないかどうか確認します。

問題はないようです、スイッチを入れっぱなしにすると上部濾過のフェルトの上のホースから海水が出てきました。

しばらく監視してから問題がない事を確認し、バケツに入れていたチョウ達を水槽に戻します。
水槽は2階の窓際にあって、窓が開いていました、チョウが入った20リットルのバケツを持ち上げて水槽に傾けた時です。

そうです、バケツからハタタテが飛び跳ねて窓から落ちて行きました。
家族の冷たい視線も気にせづに「チョウが飛んでった。」っとわめきながら階段を駆け下りて地面の上で跳ねているハタタテを手で軽くつかんで、また2階の水槽にかけ戻って水槽に戻すと、ハタタテは何にもなかったように泳ぎ出しました。

安心して、今回使った道具やらバケツなどを片付けて、改めて水槽の前に座った時に、なんか魚が足りない気がして良く見るとカクレクマノミの姿が見えません。

いない!!クマノミがいない!!ではさっき飛び跳ねたのはハタタテだけではなかったか!!

また、階段をかけ降りてさっきハタタテが落ちた場所を探すと、すっかり水分が乾燥して、ピクリともしないクマノミがセメントの上に横たわっていました。

指で軽くつまんで2階に戻って水槽に入れると、硬直したままずぶずぶ沈んでいきます。

時間にして15分は空気にさらされていた事になり、やっぱり駄目かっと思った時に、niftyのフォーラムで魚の人工呼吸の事が話題に上がっていた事を思い出しました。

新鮮な酸素を含んだ海水を、口からいれてやる事によって魚が蘇生するっと言う事で、駄目もとで上部濾過から落ちてくる水の下に、口を開けたクマノミを持って行きます、その態勢で5分してから、そーっと水槽に放しますが動く気配はありません。

やっぱり駄目かと諦めかけたとき、エラがちょっと動くのが見えました。
生きている、まだクマノミは生きている、更に人工呼吸を10分、15分と続けていると家族も寄ってきて心配そうに見ています。

だんだんと元気が戻ってきて、水槽の中を泳ぎ出した時、水槽の中のお魚が市民権を得た一瞬でもありました。


第8話 ウェットスーツ

私の60センチの水槽はすぐに魚で一杯になって来ました。
それでも、まだ見ぬ新しいチョウを求めて岸壁通いは正月近くまで続きました。

そんな様子を見て釣り仲間のMさんは 「その内にウェットにも手を出すぞ。」の冷やかしに
「そんな高い物に手は出ませんよ」っと言うと「あのね、miuraさん、スーツは何もそんなに高い物だけじゃないのね、1万円ちょっとで一式そろうんだよ、それなら高くないでしょ。」っとOさんが親切そうに話しかけます。
それをMさんがニヤニヤしながら見ています。

その笑いの意味は私も十分知っている訳で、Mさんは私がチョウの病気に順調にはまり込んでいるのを笑っているのです。

私のO師匠の持論は、すべてになるべくお金をかけないでやるっと言う事です。
しかし、どうしてもこれだけは欲しいっと言う物は高かろうが買ちゃうんです。

そんなOさんのありがたいお言葉は
ウェットは某釣具ショップが4月になるとシーズン前の売り出しでウェットスーツ上下、帽子、ブーツで1万円、ベルト、重りで2、000円で買えるっと言うものでした。

それ位ならと、ショップに行くとそれまで釣りの用具を買いに来た時は見もしなかった潜水用具がちゃんとありました。
前から持っていた水中メガネも古かったので一緒に買って、これでいつでも潜れる準備は出来ました。

しかし、季節は春っと言っても4月、水温は低いはずです。
ちょっとの間ならウェットも着ることだし、4月の海は4月でないと見れない訳だしっと訳のわからない事を言いながら、近くの磯で潜り初めです。

場所は東京湾に面した、最近では首都圏に近いっと言う事でカラフルなウェットを着たダイバーが増えてきた場所です。
ダイバーは漁協と提携したスクールが建てた建物の中で着替えが出来るからいいのですが、そんな場所もない私にとって東からの風の中、揚がって来て濡れた状態での着替えは寒いだろうなっと思いながらも着々と準備をして、いよいよエントリーです。

大潮になると何度か見て回った所なので、場所的には始めはゴロタ石と言う事はわかっていました。
打ち寄せる波を受けながら、そのゴロタ石を過ぎると海草が茂っていますが、ちょっとカラフルな岩肌も見え出しました。

どうせ今日は綺麗なお魚は期待はしていないので、水槽に入れられる綺麗な海草でも有れば良いなっと言う感じです。

カジメなどの大きな海草の林の切れ間から見える、石灰藻の岩肌を丹念に見て回ると居ました。
ガラス細工のような濃い緑色をした、カタツムリが背中に背負った貝を何処かに置き忘れてきたようなウミウシです。

それをそーっと採集いけすにいれて、そばにあった緑色をしたツタ科の水草も採集しました。

他の場所に移動して海草の中に頭を入れた時に目の前の黒い物体が急に動き出しました。
後ずさりして離れて見るとサメ(ドチザメ)です、こちらを襲ってくる様子はなく悠々と泳ぎ去って行きました。

その後は赤い模様のウミウシ(サラサウミウシ)を見つけて、入れ物に入れてからバッグが置いてある所に戻ります。

陸に上がると、入るときに心配したように風が強く、ウェットを脱ぐのにかなり勇気がいります。
こんな時は息を止めて一気に着替えたほうが良いみたいです。

最後にシャツのボタンを止めていると、こちらの方に男の人が歩いて来ます。

男の人 「漁協の物だが何採ってんだ。」

私「何って、ウミウシですよ。」

男の人「何、ウミウシ、ウミウシってあのムラサキの汁を出す奴か。」

私「いや、もっと小さくて綺麗な奴ですよ。」

っと言って生簀のフタを取って見せます、男の人はそれを覗き込みます。

男の人「こんなもん採ってどうすんだ、売れる訳でもないんだろう。」

私「水槽に入れて飼ってるんですよ。」

男の人「こんな物飼ってどうすんだ、実は通報でここでウェットを着て潜っている奴がいるって言うんで見に来たんだ。やっぱり通報が有れば見に来なければならないんだ。」

っと言って帰って行きました。

そんな風に私の初ウェット着用潜水は無事に終わりました。


第9話 夏を待ちきれずに

チューブの歌ではありませんが、その後チョウチョウウオがまだ現れないのはわかってはいるのですが、休みの度にあっちの磯、こっちの磯と潜る範囲を広げて行きました。

潜る場所の決定は、以前に釣りをやっていた時に買った「船釣りマップ」です。

この本には水深はもちろん、水面下の隠れた「根」まで載っているのです。

しかし、水深や「根」などを参考に期待して潜っても海草ばかりで、がっかりの連続でした。
何処に行ったら海水魚図鑑などに載っている綺麗な無脊椎類やかわいい生物達に会えるのか、考える様になりました。
やはり環境なんだろうなー、なんて漠然と考えるようになって、そん時にペットボトルに入った「室戸の海洋深層水」なるものを見つけました。

その商品の脇に置いてあったコピーのカタログには、深層水なるものの概要や効用が書いてありました。

それは、窒素やリン、ケイ酸などの無機栄養塩などが多く、微量元素や様々なミネラルがバランスよく含まれている「魔法の水」の如く書いてありました。

成る程、この水が湧き上がる磯を探そうと単純な私は考えました。

早速、例の船釣マップを広げると、もともと半島なので陸地からちょっと離れると200、500、1000メートルと急に深くなっています。

その等深線の間隔が狭い所がきっと例の「魔法の水」の湧き上がる所と決め付けて喜ぶのでした。

まあ、その考え方がまんざら間違ってはいないのでしょうが、これと言った確信が得られない私に、また、新しいキーワードが現れました。

「森は海の恋人」です。

その頃は、新聞の番組欄に「海」の言葉が載っている番組は欠かさず見るようになっていました。

NHKの「世界生き物紀行」などは大のお気に入りで、宮崎美子さんなどはいきなりファンになっちゃいました。

そんな番組の中では、山の樹木の落ち葉などの栄養分が雨水に溶け出して、川をつたい海に運ばれて、磯が豊かになる、森林が開発された海では「磯焼け」と言う現象が起きて磯が死んでしまっていると言う事です。

成る程、そこで単純な私は「森」をキーワードにある磯を選びました。

その磯は釣りやバーベキューで、知っている人は知っているようで、その日も何人かの釣り人や何組かのバーベキューの人たちがいました。

そんな人達を横目にウェットスーツを着て海に向かいます、手に持ったタマ網が不信者と区別できる所です。

入った岩のすぐ下のオーバーハングになった所に黄色や赤のイソバナが見えます、近くの壁になった所にはシロウミウシ、アオウミウシやコモンウミウシなどが見えますが、今までの他の磯と比べて余り変わった物は見つかりません。

そこで、その森からの「魔法の水」流れ出ているであろう磯の方に場所をかえます。

もし、ここで何にも変わったものが見つからなければ、「海洋深層水」、「森は海の恋人」も何の為にもならなかった事になります。

潜って慎重に探して行きますが先程の磯と変わった物は見えません。

独り言で「何が森は海の恋人じゃい、森は昌子の旦那さんだ。」などと訳のわからない事をブツクサ言っていると、今まで見た事のない大きなイソギンチャクが現れました。

確か本にはサンゴイソギンチャクと書いてあったような、でもそれはサンゴイソギンチャクのように触手が丸くはなく細長いものでしたが、私の予想は的中したのです。

場所を移動して行くとそのイソギンチャクの数が増えてきました。

そして、沖合いの方まで進んで行くと、見渡す限り(これはちょっとオーバー)深さ3メートル下の全部が、そのイソギンチャクの群落となりました。

大きな物は50センチ、中にはサンゴイソギンチャクのようにちゃんと丸くぷっくりとした物が、波の動きでゆらゆらとゆれています。

やっぱり私の理論は間違っていなかったと、さっきのぼやきも忘れ1人悦に入っていました。

こう言う事は人と共有する事で喜びも倍増するもの、後日、O師匠にも同行して見てもらいました。

師匠いわく「いやーこれは私の人生の中のベスト5に入る感動だ!。」

師匠!それはちょっと言いすぎですよ。


番外【海洋深層水

文中で出てきた海洋深層水ですが、テレビやラジオでコマーシャルが流されるようになり、大分一般的になってきました。
深層水は高知、富山そして三浦市のDSW(ディープシーウォター)などの深層水が使われた製品が出回っております。
ここでは、これらとは違った意味での取り組みをご紹介したいと思いますが、人伝に聞いた事もありますので、必要がありましたら再度ご自分でご確認をお取りになることをお勧め致します。

この深層水の特徴は(http://www.kochi-kg.go.jp/~kochi-dw/explanation.htm

@、低温安定性

A、富栄養性

B、清 浄 性

C、熟 成 性

D、ミネラル特性


ですが、この中の A を利用して水産庁主導(マリノフォーラム21)で漁業資源を豊にする取り組みです。

方法としては相模湾は伊豆半島の稲取と城ヶ島を結ぶ約中間点の水深がおおよそ900メートルある所にブイを浮かべ、そのブイから水深200メートルの深さまで、直径1メートルの吸入菅を伸ばし毎分70トンの深層水を汲み上げると言うものです。

ブイの高さは全体で30メートルで、通常は頭部の直径6メートルの部分だけ水上に出して、自家発電の空気の取り入れや運転状況を電波で送るようにするようです。

その直径1メートルの吸入菅で吸い上げられた深層水は3対1、深層水が3、表層水が1(ここの所がイマイチ記憶が定かではない)の割合で水深15メートルの深さの所に最低でも2年、最高5年間滞留するような形で放水されます。

深層水だけでは表層水に比べて密度が重い為にせっかく汲み上げても沈んでしまうのでこの様にブレンドするそうです。

その栄養価の高い深層水がプランクトンの発生、育成に効果的に働きプランクトンが大量に発生して、それが餌となり漁業資源食用とされる魚も豊かになると言うものです。

一部、環境が変わってしまうんじゃないかと心配する方もいらっしゃいますが、ここ近年、青物(イワシ、サバ)が不良で、イワシは高級魚などと言われています。

この様なことが実を結んで浜に活気が戻ればと思っています。


第10話 遠征初日

魚の数が増えてくると、次ぎは種類が欲しくなるもので、そんな私に又O師匠からのやさしいお誘いです。

O師匠「某半島に良い所があるんだ、去年Mさんと二人で行って楽しかったんで、今年は3人で一緒に行こう。」

場所はO師匠が奥さんと遊びに行った際に、沖から帰ってくる漁船が断崖の岬の突端の陰に消えて行くので、絶対にこの下に港があるはずだと考え、上の道から下に落ちる道を探し当ててやっと見付けた穴場のポイントです。

決行は3人の夏休みの日程を調整して金曜日の夜と決まり、土曜日、日曜の午前中遊んで帰りは日曜の夕方です。

それまでに、もって行く道具、食料、いわゆる衣食住など、そして前回行った際の、本来の目的である魚の状況などを、メールや電話で何度も連絡を取り合って、いよいよ決行の日、金曜の晩を迎えました。

ひとつ気がかりなのは、いや、大きな心配は現在シトシトと雨を降らしている低気圧の通過です。
天気情報によると今夜が一番のピークで、明日になれば東の海上に抜けて問題はなくなると言う事ですが、通過が遅れれば海に入る事は出来ないのですから。

それでも、折角準備したので天気情報を信じて出発です。
雨や風は益々強くなり、現着くの午前4時、ひとまずエンジンと止めて仮眠を取ります。
6時なって目が覚めても雨風はいっこうに収まる様子はありません、仕方がないので、漁師の小屋を借りて朝飯を作って食べますが、雨風が吹き込んできて楽しいはずの朝食は情けない状態です。

後片付けも早々に、また車に乗り込んで雨風を凌げる場所を探しますが。同行のMさんからはこんな状態では雨風が止んでも海に入れるまで時間が必要だし、これなら今のうちにいつもの我々のホームグランドまで戻って、そっちで遊んだ方が明日の帰りも渋滞がなくて良いんじゃないかの提案にO師匠、私も賛成して帰る事になっちゃいました。

助手席でO師匠の、気圧の推移がグラフで表示される腕時計を見ると、夜中に山越えの時はかなり下がりましたが、30分位前から上がってきています。

私 「Oさん、これっていい傾向じゃない?」

O師匠「どれどれ、おおこれは!!。」

車はすぐにUタウン、それから空模様は急速に回復してきて、目的地に着く頃には青空が見え始めました。
漁師が奥さんらしき人と高台に引き上げた船をロープを使って降ろそうとしています。
それがその漁師の男と女の人だけでは手に余るようで、そんな仕事を見ていると黙って見ていられない私は「手伝いましょう。」と言って船の下に引く木の移動や、船の方向を変える為に横から押したりして手伝います、初めは邪魔そうにしていた漁師も「もう少しこっちへ押してくれ。」と言うように変わってきました。

2隻の船を降ろし終わると、その漁師は素直に助かったと言う気持で私達にお礼を言ってくれました。

漁師 「ところで横浜ナンバーだが何しにきたんだい。」 我々の車を見ながらいいます。

私 「お魚、チョウチョウウオと言う水槽で飼う魚ですけど、この辺にはいますかね。」

漁師 「ああ、よくタマを持って取りに来ている人がいるからいるんじゃないかね。」

さっきの奥さんらしい女性が戻ってきて 「お礼にジュースでも思って行ってきたんだけど、自販機が停電のようで出ないんだ。」と済まなそうにいいます。

我々 「ああ、気にしないでください、それよりこれから魚を捕まえるのに海に入るんですが、どの辺が良いですかね。」

漁師 「あわびやサザエの居場所はしてるが、小さい魚の居場所はわかんねえが、気をつけなければいけないのは、潮は向こうから来てあの岬の方へ流れているので、あの岬の方へは流されるんで近づかない方が良いぞ。」

我々 「了解です、気をつけます。」

漁師とその女性は朝食がまだだったようで自宅へ戻って行きました。

O師匠 「miuraさん、あそこにトイレがあるでしょう、その脇にシャワーが付いてるんだ、多分後で駐車料金を集めにくると思うけど、こんなに海の近くでテントも張れてシャワー付きだから、他にこんなに良い所はないね。」

そんなO師匠の説明もそこそこに、小さな港の岸壁を覗くと簡単に数匹のチョが確認できました。
これは実際に海に入れば、ホームグランドではお目にかかれない種類が期待できそうで、早速着替えて若干波が残っている磯に入ります。
夕べからの大雨で、表面は雨水のようで、浮かんだ状態だと海底が陽炎がかかったようにぼやけて見えます。
しかし、頭を30センチも潜り込ませると、ホームグランドのような海草などは少しもない、綺麗な世界がありました。
サンゴイソギンはぷっくり丸く、大きなソラスズメダイの群れ、なんと言ってもすごいのが海水の透明度でしょう。

魚の数や種類はそんない多くはありませんが、強い日差しの中で普段の仕事の事も忘れて、大自然の海の世界にどっぷりと使った開放感と言ったら、久しぶり、いや初めての感動でしょう。

午前の部の採集も終えて、昼食は簡単に夕食は豪勢にの決めのとおり簡単に済ませて、夕べもあまり寝ていなかったので、暑く焼けた岸壁に敷物を敷いて横になります。

心地よい睡魔でまどろんでいると誰かのサンダルの音がします、顔の上に置いた麦わら帽子をずらして見るとニコニコしているO師匠が立っていました。

私 「何か捕まえた? 採ったでしょう。」

元々ウソをつけない人なので顔にちゃんと書いてあるんですね。

手に持ったバケツを覗き込むと何やら見た事もない茶色い魚が泳いでいました。

私 「これは何って言う魚?。」

O師匠 「これはね、ナンヨウツバメウオっていうんだよ、枯葉に擬態するので有名な魚で、港の吹き溜まりは注意して見るようにしてんるんだが、まさかここで採れるとは思ってもいなかったよ。」

と少し興奮したように話します、私はもちろんその魚を見るのは初めてで、世の中にこんな魚もいるんだと言うのが正直な気持ちで、本来は一緒になって喜ぶべきなんでしょうが、何で見付けた時に私に教えてくれなかったのか、教えてくれればどんな感じで浮かんでいるのか、次ぎに私が探すときの為にもなるのに、とOさんにクレームつけます。

私 「Oさんなんで私を起こしてくれなかったの。」

O師匠 「いや、ほら、これってのろいようでも結構危険を感じるとすばしこかったりするから、急がないと。」

私 「なに言ってるの、潜る時に使うタマ網じゃ短くて、竹ざおにくくり付ける時間があって、私が寝ている横を音を立てないように行ったんでしょう。」

そんなこんなで午後からの採集にはリキがはいって、ゴマチョウをゲット、カンムリベラは見ただけでしたが満足のいく1日でした。


第11話 遠征は楽し

近所の子供たちや、真っ赤な夕日が沈むと楽しみの夕食の時間です。

昨日の晩、出発の時に1万円づつ出し合ってプールした中から支払った、焼肉、ウィンナーやら、そしてビールで楽しい時間の始まりです。

今日の反省やら明日の予定などを話していると、朝の漁師と近くの別荘みたいな所に住んでいる方もやって来て話しに入ってきました。

どうも漁師の方の名前はYさんで、別荘に住んでいる方はNさんでした。

Yさんは大工ですが、仕事が休みの時は海に出て魚貝類を採ったり、船で海女さん達をポイントまでの送り迎いなどをしているようです。

Nさんは海が好きで、江ノ島に別荘のマンションを買ったようですが、夜に暴走族がうるさく「自分が求めている海はこんな所ではない。」と現在の建物を買ったようです。
この建物は地元の方がダイバー用に建てようですが、客が少なくやって行けなくて手放したようです。

Yさん「Nさん、実はこの方達に、朝引き上げてあった船を降ろすのを手伝ってもらったんですよ。」

Nさん「そうですか、私が手伝いに行けなくて済みませんでした、いや、みなさん、私がここに引っ越してきて、このYさんにはお世話になってまして、ここでの生活の事や、海に関する事なんか全部教えてもらってるんですよ。
ほら、Yさんの手を見て御覧なさい、この人は潜ってあわびやサザエを採る時、手袋は絶対しないんです。」

Yさん「あわびはどうしても狭い、頭が入らない岩の隙間にいるから、どうしても手探りでないと採れないんだ。」
と言って傷だらけの手を出して見せます。

Yさん「大体海の中は、陸を見ればわかるんですよ、と言うのもここの港の付近は少しだけだが平野がありますよね、こう言う所は海も遠浅なんです、反対にあの岬のように断崖になっている所は、海も急に深くなっているんですよ。」

私「なるほど、確かにそうかもしれませんね、でもこの村の家はどうしてあんなに高い所にあるんですか。」

Yさん「それは台風の時に波があそこまで上がって来た事があるからなんですよ。

私「でもそうだとすると、Nさんの別荘は危険じゃないですか。」

Yさん「いや、あそこまで上がったのは80年も前の事なので、もうその様な事もないんでしょう。」

私「ところで、Nさんはどれ位のペースでこちらに来ているんですか。」

Nさん「ここの所毎週来ているね、金曜の夜仕事が終わったらそのまま直行だよ、仕事の方も子供達が手伝ってくれるようになったので、もう自分は何んにもしなくてもようくなってるんだけれどね、でも、ここの海は最高だよ、月夜の晩なんかは、月の光が海にきらめいて、部屋の明りを消していつも見入ってるんですよ。」

と言って我々の持って来たビールが底をついたので
自宅にワインを取りに行くと言うNさんをおし止めて、明日も朝から潜るので本日の宴会は解散となりました。

翌日、朝食の支度をしているとYさんが来て、朝食前に自分の船に乗せて、この付近を案内してくれると言います。
早速、船に乗り込みます、船は岬を目指して走ります、沖合いにカモメが見えて小魚の跳ねるのが見えて、大きな魚のセビレも見えます。
船がそのナブラに近づくと、小魚の群れは沈んでしまいます。
その後、岬の展望台からは見る事が出来ない、岩の断崖を見せてもらいました。
1度港に戻って朝飯を済ませると、近所の海女さん達が集まってきました、昨日の朝船を降ろす時にいた女性もいましたが、どうもYさんの奥さんではなかったようです。

その海女さん達と一緒に、チョウ達がいるであろう場所まで船で送ってもらって、採集しながら帰ってくる事となりました。

採集の方はあまり変わったお魚さんは採集出来ずに、ヘロヘロになってやっと港に戻ると、先を行っていたOさんがモーターボーに乗った若い男性と話しています。

Oさん「何処からいらっしゃったんですか。」

若い男性「この先のMからです、うちのかみさんが、ここの出身なので子供達を連れて、夏休みなんで来ているんですよ。」

Oさん「そうですか、ここはそんなに有名じゃないけど、良い所ですよね。」

若い男性「そうですよ、私もこの近くの出身ですが、うちの奴と結婚するまで、こんな村があるなんてわかりませんでしたからね。」

その後、昼食の準備をしていると、先程の若い男性が潜って採ったと言うサザエを持ってきてくれたので、七輪で焼いて美味しく頂きます。

昼食を終えると帰りの道が込んでくる前に帰らなければなりません、YさんとNさんにお礼を言って車に乗りました。


第12話 そんな金曜の晩 (どんな晩や)   

いつもの様にOさんに定時連絡です。

私「Oさん、明日は何処にする。」

Oさん「うん、天気も良さそうだしね、何処にしようか?」

私「タマにはOさんの方にでも行ってみようか、何処か良い所はないの。」

Oさん「うーん、それじゃ昔俺がセグロを捕まえたところまだ行った事なかったよね。」

私「ああ、あのマンション下の浅い所ね、まだ行った事ないからそこにしようか。」

Oさん「了解、明日の潮はそんなに引かないので、現着は10時でいいかな、各自弁当持参でと言う事で。」

と言う事でこんな話しはすぐに決まります。
この頃には二人の準備、行動パターンは決まっていて、移動はバイク、渋滞でも気にせず移動が出来ます。
カブの後に取り付けたコンテナボックスにはウェット一式、採集タマ、上がってからかぶる真水が入ったペットボトル、コンビニで買った弁当と350CCの缶ビール、そしてコーヒーが入ったポットがバッグに入って乗っています。

マンション裏の行き止まりで、予定の10時現着ですがOさんが見えません、いつもは私よりも早く来ているのですが、いるのはベンツに乗った黒のスーツを着た、この場にふさわしくない人が携帯で話しています・・・。
不審に思っているとやってきました赤いバイクに乗ったOさんです。
どうも黒鯛を釣っているのを見ていたようで、何にでも興味を持つ人です。

早速、今日の予定の打合わせです、今日は余り潮が引かないので、着替えが入ったバッグを磯の高い所に置いて、初めは右側の防波堤を見て、それを超えて湾の内側を見て回わります。
その後は戻って左側の岬の先の方を探します。

磯から入ってチョウが確認が出来たのは湾の中に入ってからでした。
しかし浅い所では足ひれや手が底に着くと土ほこりが舞い上がって、すぐにチョウの行方がわからなくなります。
堤防の内側にはチョウの確認は出来るのですが、大きな石がいくつも重なっていて、その隙間を自由自在に逃げて、とても手におえません。
素直にあきらめ、Oさんに合図をして初めに入った方に戻る事を伝えて引き返します。
そこでです、我々の着替えが入ったバッグが置いてある所を見ると、大勢の人達が集まってバーベキューをしています。
ちょっと心配ですが、予定通り岬を目指して泳いで行くと、今までの磯とは違って平らな綺麗な磯が広がっています。
いかにも越冬したのかと思われる大きなナミチョウが3匹群れで泳いでいて、追いかけますが海の中ではかないません。
すでに、水槽に入っている種類なのであきらめが早くなります。
O師匠の近くに行って様子をうかがうと、大したのは採れてないようなので帰る事にしました。

それからが大変です、我々の荷物を置いてある所が人でいっぱいになっています、中には水着姿の若い女性もいたりして、そんな中に、ウェットを着たへんてこな2人が上がって行きます。

丁度、ペンギンがコロニーへ戻って行くみたいなものでこっけいな姿でもあります。
親が子供を探すように自分のバッグを探します、バッグの上に置いてあったペットボトルが見当たりません。
Oさんの物はありましたが私の物が見当たりません。Oさんが水浴びしてるのを見て、それまで岩の洞窟の中で座っていた年配の女性がこちらを見て何か言っています。

おばさん「あら、ごめんなさいね、そこにあった水手、を洗うのに使っちゃった、ほら、この人達に飲みのもや食べ物をさし上げて。」

Oさん「いや、我々は結構ですから、自分達で準備してきてありますか、ところで、今日は何の集まりなんですか?」

おばさん「ああ、これは私のお店の親睦会さ、何にも気を使う事はないから食べたり飲んだりしてちょうだい、ところであなた達は何と取ってきたの。」

Oさん「チョウチョウウオと言って黒潮に乗って流されて来る、南方の熱帯魚を捕まえているんでよ、あいにく今日は余り取れなかったんですがね。」

おばさん「へーえ、それは良い趣味ね、私達なんか海に来るのなんか年に何回かしかないけど、あなた達がうらやましいわ。」

近くにいた比較的若い女性が私とOさんに、焼き上がった肉と缶ビールを持ってきてくれました、断っても悪いのでありがたくいただいて、持ってきてくれた女性にさっきと同じ質問をすると、どうもキャバレーのバーベキュー大会の様で、いかにもホステスやウエイターのような人達が多く見えました。
そう言われれば今朝の黒のスーツをきた人も仲間に入っていて、さっきのおばさんの若いツバメのようで、早く来て場所の確保をしていたようです。

我々は頂いたビールを飲み終え、お礼を言ってからその場所を離れ、家から持ってきたコーヒーを飲みながら今日の反省やら次回の予定などを話し合います。
この時が一番楽しいのかもしれません。